ポルシェ博物館訪問記⑤…1980年代以降のレーシングカー

5回に分けて書いたポルシェミュージアム訪問記、ラストは’80年代以降のレーシングポルシェを紹介します。

1980年代

◆ポルシェ956(1982年)

最も見たかった車の1台がこのロスマンズカラーの956だったのですが、天井からぶら下げての展示で、ちょっとがっかり…

ミュージアムの説明文によると…

理念「スピード」の代表モデルは、ミュージアムの天井から上下さかさまに吊るされた「ポルシェ 956」です。最高速度321.4 km/hのこのモデルがダウンフォースにより理論的には飛び立つことが可能なことを示すために、このようにユニークなかたちで展示されています。

とのことで、300km/hオーバーでのダウンフォースは956の車重をも上回るということを表現すべく、こういった展示をしているようです。趣旨は分かりますが、’80年台の耐久レースで一時代を築いた956は普通に見せて下さいよ。

仕方ありません。画像を反転させました。
で、ダウンフォースの話です。横幅が広い水平対向エンジンは車体底面を逆翼形状にし辛く、F1では1980年のフェラーリを最後に姿を消していましたが956はエンジンを5度前傾させて搭載することで問題を解決し、ポルシェ初のグラウンドエフェクトカーとなりました。

2,650cc水平対向6気筒エンジンは、’82年当初はヘッドのみ水冷でシリンダーブロックは以前空冷でしたが、’83年からは遂にフル水冷化されたようです。

ロスマンズカラーって好きなんですよね。私が初めて買った中型バイクはホンダのVFR400Rで、勿論ロスマンズカラーでした。

私の愛車だったVFR400Rです。

◆マクラーレン TAG MP4/2C(1986年)

私が見たかったもう1台がこれです。
このマシンでニキ・ラウダ’84年、アラン・プロストは’85年と’86年にワールドチャンピオンに輝き、チームとしても’85年と’86年はコンストラクターズタイトルを獲得しました。ラウダとプロスト、二人とも好きなドライバーなんですよね。

’80年台前半のF1界では急速にターボ化が進んでおり、ブラバムはBMWの、ウィリアムズはホンダ、ロータスはルノーのターボエンジンを獲得していました。その中で出遅れそうになったマクラーレンでしたが、ラウダの人脈や政治力もあってアラブ資本のTAGから資金を引き出し、自己資金ではF1参戦の意思が無かったポルシェにエンジン開発を委託しました(ラウダがオーストリア人であるというのもこの話が纏まった要因の一つかも知れません)。

マクラーレンのチーフデザイナーだったジョン・バーナードはF1初のフルカーボンシャーシ(MP4/1)を設計するなどの偉大な業績を残したデザイナーです。その彼がTAGポルシェエンジンを搭載するMP4/2を設計するにあたっては、単なるエンジン性能だけでなくシャーシ+エンジンのトータルパッケージを最適化するという今では常識になった概念を初めて持ち込みました。

V6エンジンのバンク角や補機のレイアウトだけでなく、ターボチャージャーのタービン回転方向を左右対称にするよう指示するなど、バーナードのこだわりは細部に及んだようです。

シャーシナンバーはMP4/2C-4なので5台作られたうちの4号車のようです。


956とマクラーレンTAGポルシェを先に紹介したので年代が前後してしまいましたが、以下、年代順に戻ります。


◆ポルシェ924 GTP ル・マン(1981年)

944のプロトタイプ的な位置付けだった1台で、勝てるとは期待せず、とりあえず「最もシビアな環境」、即ちル・マンに出してみたらクラス優勝を収め、総合でも7位に入ったと誇らしげに書いていました。エンジンは水冷2.5L直4ターボで、最高出力は410psです。

尚、944の市販モデルはこの年秋のフランクフルトショーで公開されています。

◆ポルシェ924 カレラ GTR(1981年)

17台だけ作られた924ターボのハイチューンモデル。展示車はクレマー・レーシングがドイツ国内のチャンピョンシップで走らせたものです。

◆ポルシェ928 S “Trigema” (1982年)

928は大排気量エンジンを積んだ豪華GTというイメージなので、レース仕様とは珍しいですね。4.6LのV8エンジンはノーマルの300psから340psまでチューンされていますが吸排気系をいじった程度なのか、UP幅は控えめです。

928はベンツSLやジャガーXJ-Sや、価格帯は違いますがアストンやフェラーリ412などのライバル達とは違う理詰めなスポーツ性を持つラグジュアリーGTというところに個人的には魅力を感じるので、ここでは市販仕様も見たかったですね。

◆ポルシェ961(1986年)

これも私が好きなロスマンズカラーです。959を北米のIMSA-GTXレギュレーションに合わせたマシンで、’86年のルマンでは4WDのお陰で天候変化にも上手く対応してクラス優勝、総合でもグループCカーが上位を占める中で7位に食い込んでいます。

◆ポルシェ944 ターボ “Cup”(1987年)

1985年に発売された944ターボを用いて行われたワンメイクレースである”944 Turbo Cup”に使われた車です。ポルシェはこのレースで三元触媒や無鉛ガソリンを使うなどして環境対応技術を蓄積したそうです。

1990年代

◆ポルシェ962 ダウアー “ル・マンGT”(1994年)

Wikipediaによると、この年設けられたGT1クラスの規定には「市販されていることが条件だが生産台数の規定がなかった」というレギュレーションの隙を突いて、グループCカーである962Cをベースに1台だけ公道走行可能な車を作ってル・マンに参戦。そしてまんまと優勝。


抜け穴のあったレギュレーションもいかんけど、そこまでして勝って嬉しいっすか…?

◆ポルシェ 911 GT1(1998年)

上のダウアーのようにやりだしたらGT1カテゴリーが滅茶苦茶になるので、25台の生産が義務付けられました。下の写真は’98年のル・マンで優勝したマシンです。

こちらは「アリバイ」のため作られた公道仕様です。

2000年以降

◆ポルシェ RS スパイダー(2008年)

個人的に2000年代以降はF1以外のレースは殆ど関心を持たなくなったのでALMS(American Le Mans Series)というレースが有ることを今回初めて知りましたが、そのALMSと、本家ル・マンのLMP2カテゴリー参戦用に作られたマシンだそうです。

エンジンはN/A 3.4LのV8で2005年のALMS最終戦から投入され、2008年にはル・マンでクラス優勝を果たしています。

◆ポルシェ911 GT3 RSR(2008年)

911の市販仕様が997にモデルチェンジしたのに伴い、FIAのGT選手権用911も新世代の997ベースに進化しました。3.8Lのフラット6エンジン(勿論水冷です)は465psを発揮したそうです。

でも、ポルシェジャパンのサイトを覗いてみたところ、今や最新の911の市販モデル(2018年時点)って、ベースモデルの911カレラでも370ps、911ターボだと540psもあるんですね。

◆ポルシェ911 GT3 R ハイブリッド(2010年)

2010年時点で、レースに最適なハイブリッド技術としてポルシェが出した回答がこの911に搭載されているフロント2モーター+フライホイール式バッテリーの組み合わせでした。

④の部分に搭載されているのが”Electrical Flywheel Battery”というもので、最大40,000rpmで回転するフライホイール=はずみ車がとモーター兼発電機が内蔵されていて、減速時に②のフロントモーターが回収した電気エネルギーをフライホイールの回転エネルギーに変換して蓄め、加速時にはフライホイールの回転エネルギーで発電機を回してモーターを駆動するという興味深い技術です。

◆ポルシェ919 ハイブリッド(2014年)

2014年、ワークスポルシェが16年振りに世界耐久選手権に戻ってきました。パワーユニットは2.0LのV4直噴ターボ+ハイブリッドの組み合わせですが、バッテリーは上記のフライホイール式ではなくリチウムイオンでした。

ル・マンでは、アウディやトヨタを退けて2015~2017年にかけて3連覇を果たしました。ブランクがあったにもかかわらず、どうしてそんなに強いんですかね?

ミュージアムの感想など、最後に

先ずはミュージアムを訪れてみての感想です。

  • スペースに余裕を持って各車展示されているだけでなく、周りに柵やワイヤーがありません。やんちゃな子供が触れないか心配ですが、細部までじっくり観察できる環境は素晴らしいです。
  • この博物館はポルシェが”Rolling Museum”と称している通り、定期的に展示品の入れ替えがあります。ですので、目当てのものが有っても行けば必ず見れる訳ではありません。私の場合、①936のルマン優勝車、②928の量産モデル、③マクラーレンのTAGエンジンの単体展示、これら3点も見たかったのですが私が訪れた時には展示されておらず少々残念でした。
  • 一方で、期間を置いて再訪すれば行く度に異なる展示を見れる訳です。ポルシェ所蔵の貴重なコレクションをバックヤードに死蔵せず、満遍なく公開しようというポリシーですね。

5回に分けて紹介したポルシェ博物館訪問記、書き始めた時は写真に簡単なコメントを付ける程度紹介するつもりでした。しかし、手持ちの雑誌(主にCG誌)や自動車アーカイヴ、各種サイトなども参考にしながら書いていると興味深いエピソードやサイドストーリーを知ることができて楽しくもあった一方、ポルシェは同じモデルや近い年式でも仕様変更が多く、経緯やスペックを調べているうちに深みに嵌まったりして、ちょっと大変でもありました。

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