ポルシェ博物館訪問記③…911~現代までの市販車

356は1965年まで生産されましたが、高性能、高品質なスポーツカーメーカーとしての地位を固めたポルシェは1963年の秋、新世代のモデルである911を世に出します。その後、空冷エンジンの911は大幅な改良は繰り返しながらも基本設計はそのままに、1997年に水冷エンジンの996が発売されるまで生産され(空冷最終型993の生産終了は’98年)、また、レースやラリーでも大活躍したのは広く知られている通りです。

1960年代 … 911の登場

◆ポルシェ911 2.0 クーペ(1964年)

’98年まで受け継がれることになる空冷水平対向6気筒エンジンは、この時点では1,991cc、最高出力は130psでした。これが最終モデルでは3.8L、300psまで進化した訳で(限定モデルやターボを含めるとややこしくなるのでN/A量産車での比較です)、開発当初、どんなコンセプトで基本設計したのか?どこまでの発展性を見込んでいたのか?興味が尽きません。

開発段階でのコードネームは901でしたが、3桁の真ん中に0を入れた数字は全てプジョーが商標登録していて横槍が入り急遽911に変更されました。こういった経緯のため、初期の部品には901の刻印が入ったものも存在したと聞いたことがあります。


展示車のリア・クォーターウィンドウにはPorsche Club of Ameriaのステッカーが貼られていました。

◆ポルシェ912(1967年)

発売は1965年ですが展示車は’67年式でした。911が高価過ぎるため(当時ジャガーEタイプより高かった)廉価版として設定されたモデルで、356Cの4気筒1.6L(90ps)を載せ、メーターが911の5連から3連に簡素化されていたりします。

◆ポルシェ914(1969年)

912のようなエントリーポルシェ的な市場を狙ってVWと共同開発したモデル。エンジンはリアエンジンのVW・タイプ4用の空冷フラット4エンジンを前後逆に積んだミッドシップで、ボディはポルシェが製造。


VWの大衆車イメージや、個性的というか癖のあるデザイン、2シーターということが災いして販売は振るいませんでしたが、前後に実用的なトランクがあったり、ルーフは外せるだけでなく後ろのトランクにきっちり収納できたり、ミッドエンジンレイアウトによる軽快はハンドリングなど、ハード的には良くできた車たっだという評価が多いようです。コンセプトは後年、商業的に大成功したボクスターにも通じるよう思うので、心情的には可哀想に感じる一台です。

1970年代

◆ポルシェ911 カレラRS 2.7(1973年)

73カレラとして今やコレクターズアイテムとなっている911です。このモデルで911に初めてスポイラーが付けられました。”Duck Tail”=アヒルの尾とはこの形を上手く表現した言葉です。


このモデルは911としてはカレラという名が冠された初めてのモデルなのだそうです。ところで、”Carrera”って何のこと?ググりましたよ。グーグル翻訳さん有難う。スペイン語で”レース”だそうです。

◆ポルシェ911 ターボ No.1(1974年)

北米の安全基準の強化に合わせ、1974年、911は所謂「ビッグバンパー」を付けられて印象がかなり変わりました。また、1975年には3.0Lターボエンジンを積み、ボディーもオーバーフェンダー化されたモデル(私が子供の頃は911ターボのことを930と呼んでいました)がデビューしましたが、この展示車はそのプロトタイプ的な1台だったようです。


この展示車のボディー自体はナロータイプで、エンジンも後の量産仕様が3.0Lのに対し2.7L+ターボです。スペックを比べると…
・展示車両: 2,687cc・240ps
・量産仕様: 2,993cc・260ps(後に3,299cc・300psにUP)
この展示車はスコットランド風のチェック模様がシートとサイドにあしらわれており、フェリー・ポルシェの姉、ルイーゼ・ピエヒの70歳の誕生日プレゼントとして贈られたものだそうです。70歳のおばあちゃんに240馬力のターボって…

◆ポルシェ924(1976年)

エントリークラスのポルシェを作るという914の試みは不成功に終わりましたが、その反省に立って作られたこの924はまずまず成功しました。個人的には、’70年代中盤に実用性とスタイリッシュさを両立させたデザインは秀逸だと思っています。特にリアの巨大なガラス製のハッチは今見ても斬新です。


生産はアウディのネッカーズルム工場で行われ、また、エンジンはアウディ100用の4気筒をOHVからOHC化したもの、ステアリングやブレーキ、足回りのコンポーネンツはVW系から色々と流用しています。しかし、エンジンを40度傾けて低重心化したり、トランスミッションはリアに配して(トランスアクスル)重量配分の最適化を目指したりと、スポーツカーとしてのこだわりが随所に見られます。

◆ポルシェ911S 2.7 クーペ(1977年)

先に紹介したターボ No.1(1974年・既にビッグバンパー)との前後関係がイマイチ良く分らないのですが、展示説明によるとこのモデルはGシリーズと呼ばれていて、蛇腹付きのビッグバンパーが特徴で、また、Gモデルからは排気量は2.7Lかそれ以上になった、1976年以降はボディーが亜鉛メッキ処理されて6年の錆び保証が付けられたとのことです。

展示車が1977年モデルというのは、これらの特徴を備えた1台という趣旨で、それ以上の深い意味は無いようです。

◆ポルシェ911 カレラ 3.0 タルガ(1977年)

この展示車は1年間しか作られなかった「3Lエンジンのカレラ+タルガトップ」という要素が揃ったモデルで、生産台数は1,105台に限られるそうです。911はモデルイヤー毎に仕様変更が多く、希少価値について私は門外漢なので分かりませんが、ここに展示されるということはマニアなら珍重する存在なのでしょう。

◆ポルシェ924 カレラ GT スタディ(1979年)

ブリスターフェンダー姿を見て944のプロトタイプかと思いましたが違いました。’79年のフランクフルトモーターショーに出品された車で、公道でも使える競技用の924として作られたものです。既に発売されていた924ターボはノーズに4つのエア吸入口がありますが、この車にはありませんね。最高出力は通常の924の170psに対し、こちらは210psです。

1980年代

◆ポルシェ911 SC RS(1983年)

ラリー参戦のベース用として20台だけ生産されたモデル。935のシリンダーヘッドを流用したりすることで自然吸気ながら250psと、通常のSC(204pc)からかなりハイチューン化されています。ボンネットやドアなどをアルミ製にしたり、フロント以外のガラスを薄くするなどで通常モデルより100kg軽量化。車両重量は僅か1,057kgです。

最近のクルマはエアバッグや対衝突性が求められたりと、ある程度重くなるのは仕方無いので直接比較は出来ませんが、1,057kgという車重は現行フィットの1.3Lとほぼ同じです。

◆ポルシェ944 カブリオレ(1985年)

924のエンジンは2L以上に拡大する余地が無かったため、928のV8エンジンの片バンクをベースに新たに4気筒2.5Lエンジンを開発し、フェンダーを広げたボディに載せたのが944です。この展示車は’85年のフランクフルトショーに展示されたカブリオレのコンセプトモデルで、翌’86年に発売されたDOHC4バルブエンジンが載せられています。


エアバッグ内蔵のステアリングがゴツいところに時代を感じます。

◆ポルシェ959(1988年)

グループCレースを席捲していた962のエンジンを公道仕様にして(それでも450ps)リアに載せ、駆動方式は電子制御のフルタイム4WD、最高速度は315km/hという80年代を代表するスーパーカー。

当時のグループBホモロゲーション取得のため200台限定で量産する予定でしたが、42万ドイツマルクという高価格にもかかわらず予想外に注文が入り、最終的に283台生産されました。’88年というと日本はバブル経済沸騰中、さぞかし高値で取引されたことでしょう。

◆ポルシェ911 カレラ 3.2 スピードスター・スタディ(1987年)

カブリオレよりも幌を簡素化し、リアシートも取っ払ってウィンドスクリーンを低くして往年の356スピードスターのような軽快感や解放感を狙って作られたのが911スピードスターです。


この展示車は’87年のフランクフルトショーに展示されたプロトタイプのようで、ウィンドスクリーンを外して(車載工具で外せるというのが凄い)オプションの”クラブスポーツカバー”を装着した状態です。

◆ポルシェ911 カレラ・スピードスター(1989年)

同じ世代のスピードスター何故2台展示されていたのかよく分りませんが、こちらは普通のオープン状態です。

1990年代

’80年台中盤からの十数年はポルシェにとって経営的には苦しい時代でした。’70年代発売の924と後継の944、大型GTの928は陳腐化が進み、また、911の販売は堅調だったものの空冷エンジンでは排ガス規制への対応に限界があることも明白になりつつあった時期でした。

◆ポルシェ968 CS カブリオレ・スタディ(1993年)

陳腐化が進む944の販売にカツを入れるべく、デザインだけでなくエンジンの改良(可変バルブタイミング)などを盛り込んだのが968ですが、やはり元々は’76年発売の924からの発展モデルで’90年代のライバルと戦うのは無理があったようで、販売はパッとしませんでした。


展示車は911カレラRSのバケットシート装着、パワーウィンドウ廃止などで通常の968より50kg軽量化、車高を20mm下げ17インチホイールを履かせたClub Sportsバージョンです。

◆ポルシェ911 カレラ・クーペ “Polizei”(1996年)

タイプ993と呼ばれる「空冷」911の最終進化形です。説明文によるとこの展示車は1948年にポルシェが自動車生産を開始して以来100万代目の車両で、ポルシェはこの車を地元の州に寄贈しアウトバーンの警察隊で使われたそうです。

◆ポルシェ・ボクスター(2001年)

ボクスターの発売は1996年ですが展示されていたのは2001年モデルでした。これも何か理由があるのでしょうけど、すみません、説明分を記録しておらず詳細は不明です。

いずれにしても、ミッドシップレイアウトによる優れたハンドリングや、ポルシェとしては安価な価格設定(確か発売当時日本での価格は500万円代だったと思います)によってヒット作となったボクスターはポルシェが経営難を脱する契機になりました。

コード付きの自動車電話が時代を感じさせます。

◆ポルシェ911 タルガ 3.6(2001年)

ボクスター発売に続き’97年、911も水冷フラット6エンジンを搭載し、ボディ設計も一新した996に進化します。発売当時のことを覚えていますが、「’60年代から’90年代まで、よく空冷エンジンで進化してきたものだ」と改めて感心したものです。それと、リアのエンジンからフロントのラジエーターまでどんな長い配管で冷却水を回しているのか?冷却水は何リッター入るのか?など、妙な点が気になったことも記憶しています。

展示車は2001年に登場したタルガトップですが、リアウィンドウが開閉可能はガラスハッチになっていて、ガラスのルーフ部分がサンルーフ式に後ろのハッチ下にスライドして格納されるという凝った設計になっています。

この方式は、解放感がイマイチだったりルーフを開けた時に二重のガラス越しに見る後方視界に難が有ったりしたようで、現行モデルのタルガはトップが取り外し式のスタイルに戻っています。

2000年以降

展示していたボクスターと996は共に2001年のものでしたが、共にベースモデルの発売は’90年代ですので、これ以降を2000年代~現在と区切って紹介してゆきます。

◆ポルシェ911 “Sally Carrera”(2002年)

映画”CARS”のプロモーションのため劇中に登場するキャラクターを実車化したものです。ホイルベースを縮めたりルーフを高くしたりガラスやヘッドライトを専用に作ったりと、意外と手が込んでいます。

◆ポルシェ911 GT2(2003年)

この時期の911ターボは420psで4WDでしたが、ターボのブースト圧を上げて出力は462psにUP、更に、敢えてシャーシはRR(2WD)とすることで100kg軽量化した過激なモデル。最高速は315km/hらしいですが、RRでこんなハイパワー。ウェット路面では乗りたくないものです。

◆ポルシェ カレラ GT(2003年)

元々ル・マン用に開発されたV10エンジンはノンターボ5.7L、最高出力は612ps。最高速度が330km/hというのは公道用タイヤの限界を考慮したものでしょう。ところで、ポルシェって古くはスポルトマティック、その後のティプトロニックやPDKなど、スポーツカーの自動変速技術に熱心なイメージがあるので、カレラGTのトランスミッションが6速MTというのは意外です。当時、F1では既にセミオートマ全盛の時代で、ライバルのフェラーリ・エンツォもセミATだったのですが。


スポーツカー然としたデザインのインテリアは豪華な革張り。そこにMTのシフトレバー(しかもノブは木製)が生えているところに時代の端境期だったことを感じます。

◆ポルシェ918 スパイダー(2013年)

4.6L・V8エンジン+モーター2基のハイブリッドのシステム総出力は887ps。公道用タイヤを履く市販仕様の車として初めて、ニュルブルクリンク北コースで7分を切るタイムをマークしたとのことです。

“Top Pipe”という、エンジン上方に排気するシステムです。

エンジン上部を撮影するマニアックなおばさん。

この918スパイダー辺りまでが既に”history”と言えるロードカーの展示でした。

現行モデル系やアニバーサリーモデル

以降の展示は911の各ジェネレーションや、ケイマン、カイエン、マカン、パナメーラなど、現行モデルに直結するものでした。

展示されていたパナメーラはプラグインハイブリッド仕様でした。

911ターボの5世代

各世代が並んだ展示を見ると、911がその時代毎にデザインのトレンドを上手く織り込みながら進化してきたことを実感します。

911のアニバーサリーモデル

奥から、911デビュー30周年(1993年)、西暦2000年(Millennium)、40周年、50周年の記念モデル。

ミレニアムの販売台数は911台限定、40周年の方は911がデビューした年に因んで1963台限定だったそうです。

ライカのカメラなども限定モデルが色々あってマメに蒐集しているマニアが居ますが、ポルシェもこういった限定モデルのコレクターが居そうですね。

エンジニアリング会社としてのポルシェ

ポルシェが他社製品の開発業務も請け負っていることを知ったのは’85年頃でした。当時Car Graphic誌を愛読していた中学生の私は、スペインのSEAT(セアト)というメーカーが発売したイビーサという車についての記事で「外観デザインは巨匠、ジウジアーロ」「エンジン、トランスミッション、内装のデザインはポルシェ」という事実を知り、これは凄いベーシックカーに違いないと、勝手に胸を熱くしていたのでした。

日本では馴染みの無いセアトですが現在はVWグループの一員で、ヨーロッパに行くと良く見掛ける大衆車です。セアト・イビーサの現行と初代モデルの情報がSEATの公式サイトにありますのでリンクを貼っておきます。

 www.seat.com
From the first to the latest SEAT Ibiza
http://www.seat.com/corporate/news/cars/ibiza-history-three-decades.html
Car manufacturing has changed a lot since the city car SEAT Ibiza first took to the road. See how different the first and fifth generations are here.

◆ポルシェ “C88″(1994年)

さて、セアト・イビーサの話で熱くなってしまいましたが、こちらはポルシェが独自に開発した中国の国民車です。結局、中国政府はポルシェだけでなく他のどの外資系に対しても中国での自動車生産を認めなかったためお蔵入りになりました。

エンジンは水平対向4気筒1100cc(空冷?)、出力は48~68psを想定していました。C88というネーミングは、中国では88がラッキーナンバーであるためで、また、3つの○を結んだエンブレムは一人っ子政策を取る中国での父、母、子供に因んだものです。

◆ハーレー-ダビットソン・レボリューション エンジン(2002年)

空冷VツインOHVエンジンが主流だったハーレーは、ポルシェをパートナーとして水冷DOHCエンジンを共同開発しました。これはそのエンジンを搭載したV-Rodというモデルです。

市販車だけでもうお腹一杯ですが、次の記事↓からはポルシェのレーシングカーを紹介します。

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